5.25. [ Multiplier ] セクション

このセクションで定義した係数は、 [t-track][t-cross][t-point]multiplier サブセクションで利用することができます。 エネルギーの関数として係数を定義し、タリー結果にその係数を乗じます。 例えば、任意の線量換算係数を用意し、その値を用いた場合の線量を評価する、 といったことに利用できます。

ひとつの [multiplier] セクションにひとつの係数のセットを定義でき、用意 できる [multiplier] セクションの数の上限は100です。 書式は以下の様になります。

リスト 5.25.1 [ Multiplier ] セクションの例題(1)
   [ Multiplier ]
     number = -201
     interpolation = log
     part = all
     lagrange = 2
     file = multiplier201.out
     epsout  = 1
     y-txt = Conversion coefficients (arb.)
     ne = 10
          20.0       2.678
          30.0       7.020
          50.0       18.50
          100.0      24.26
          200.0      16.13
          500.0      10.51
          1000.0     10.55
          2000.0     10.98
          5000.0     12.10
          10000.0    12.45

最初に、この係数をタリーの中で使うときのID番号を number で指定します。 指定できるIDは、-200から-299までの負整数です。 対象となる粒子は part で指定します。 定義方法は、タリーの part 定義方法と同じで、 all も使えます。 1つの [multiplier] で定義できる粒子数の最大は6つです。 同じ multiplier ID で様々な粒子に対するデータを定義したい場合は、それぞれ の粒子に対して [multiplier] セクションを定義してください。 データの内挿方法は interpolation で定義し、エネルギーと係数のデータの 両方についてlogで内挿する場合は log 、両方共linearで内挿する場合は lin 、エネルギーについてlogで係数の方はlinearで内挿する場合は xlog または ylin 、エネルギーについてlinearで係数の方はlogで内挿 する場合は xlin または ylog としてください。 [1] 内挿せず群定数として使う場合は glow もしくは ghigh と設定します。 データ数は ne で指定し、その下に ne の数だけエネルギー点と係数の値 をそれぞれ定義します。 なお、エネルギー点は昇順で書く必要があり、 glow あるいは ghigh の 場合は、エネルギー点として群の下限あるいは上限値をそれぞれ設定します。 データの外挿方法は指定できません。 定義したエネルギー下限値以下には最小エネルギー点の係数値が、上限値以上に は最大エネルギー点の係数値が使用されます。 定義したエネルギー範囲外の結果を使用したくない場合は、各タリーの e-type で調整してください。

Version 3.35 より、4点(3次)ラグランジュ補間公式による内挿方法が利用可能 になりました。 これはICRP等でも推奨されることがある補間方法です。 切り替え方法は lagrange パラメータを使用します。 これまでの2点間補間は 2(default) を、4点ラグランジュ補間は 4 を指定してく ださい。 file で出力ファイル名を指定すると、入力データおよび補間データが出力さ れます。 epsout と併せてご使用ください。 また、 [multiplier] セクションで定義した係数の名称を出力ファイル中に明 記したい場合は、 y-txt によりy軸の表示テキストを定義してください。

Version 3.03 より、いくつかのIDに対してデフォルトの値が設定されています。 それらのデータは、 /phits/data/multiplier/ フォルダに格納されており、 m+「IDの絶対値」+.inp というファイル名でそれぞれまとめられています (例: IDが-200の場合は、 m200.inp )。 設定されているのは線量換算係数データ(単位 pSv cm \(^2\) )と半導体 ソフトエラー発生率(単位は (FIT/Mbit)/(/cm \(^2\) /s))であり、 表 5.25.1 に各IDとの対応関係をまとめています。 このフォルダ内のデータは、ユーザーが自分で追加することも可能です。 これらのIDをインプットファイルの [multiplier] セクションで再定義した 場合は、再定義した値が優先されます。

半導体ソフトエラー発生率を評価するための multiplier (ID=-299)には、仮想 的な素子に対してPHITSとデバイスシミュレーターで評価した中性子SEU断面積を 格納しています。 [2] この素子に対するバックグランドソフトエラー発生率 [3] はおおよそ 400 FIT/Mbit(2MBのSRAMで18年に1回ソフトエラーが発生する頻度)となり ます。 なお、FITはソフトエラー率を表す単位で、1 FIT = 1e-9 err / hour です。 SEU断面積は半導体製品によって異なるため、実在の電子機器のソフトエラー率 を正確に算出する目的には使用できません。 あくまで一般的な地上環境におけるソフトエラー率との比較や、おおよその目安 を把握する目的に使用してください。

表 5.25.1 格納されている換算係数データの一覧

Multiplier ID

格納されているデータ

-200

\(H^*(10)\) [4]

-201

ICRP60定義に基づく実効線量(前方照射) [5]

-202

ICRP103定義に基づく実効線量(前方照射) [6]

-203

ICRP103定義に基づく実効線量(等方照射) [6]

-204

新しい実用量 \(H^*\) (全ての照射条件で最大となる実効線量) [6]

-210

男女平均した実効線量当量(等方照射) [7]

-211

男性に対する実効線量当量(等方照射) [7]

-212

女性に対する実効線量当量(等方照射) [7]

-213

男性に対する造血組織線量当量(等方照射) [7]

-214

女性に対する造血組織線量当量(等方照射) [7]

-215

男性に対する皮膚線量当量(等方照射) [7]

-216

女性に対する皮膚線量当量(等方照射) [7]

-299

半導体ソフトエラー発生率(等方照射) [2]

5.25.1. Multiplierサブセクション

定義した係数をタリーで利用する場合は、 [t-track][t-cross][t-point]multiplier サブセクションを使います。 基本的な表式は \((C\ k)\) です。 \(C\) を規格化定数、 \(k\) をID番号(ただし \(k < 0\) )として 指定します。 具体的には、各タリーのセクションにおいて、以下の様な書式で使用します。

リスト 5.25.2 Multiplierサブセクションの例題
   multiplier = all
         part = neutron
         emax = 1000
       mat   mset1        mset2
       all   ( 1 -201 )  ( 2 -202 )

multiplier = では all を指定してください。 part = で係数を乗じる粒子を指定します。 6個まで複数指定可能であり、 all も利用できます。 省略すれば all を指定したことになります。 ただし、指定した粒子以外の寄与はゼロになります。 emax = で係数を乗じるエネルギーの上限を設定します。 省略した場合は、 [multiplier] セクションで指定したエネルギーの最大値、 もしくはライブラリを使う場合はその上限値がセットされます。 それ以上では、その最大値に対する値が入ります。 次の先頭は mat として、その値は all としてください。 このパラメータに意味はありませんが、省略することはできませんのでご注意く ださい。 mset1mset2multiplier セットの指定です。 このセットは全部で6つまで指定可能で、それぞれのセット毎に結果が出力され ます。 また、ひとつのタリーセクション内に複数の multiplier サブセクションを 指定できます。 ただし、その時の multiplier セットの数は等しくなければなりません。

[multiplier] セクションで定義せずに使用できる係数もあります。 \(k=-1\) の場合は 1/weight を乗じ、モンテカルロ粒子の(すなわち、 weightを常に1とした時の)結果を出力します。 \(k=-2\) の場合は 1/velocity を乗じます。 \(k=-120\) の場合は、物質の密度を乗じますので、 icntl=5 と組み合 わせれば領域内の質量が計算できます。 また、 /phits/data/multiplier/ フォルダ内にあるID番号もインプットで 定義せずに利用することができます。 現在、整備されているID番号とデータの種類は 表 5.25.1 をご参照くだ さい。 様々な種類の線量換算係数が格納されています。 これらの単位は pSv cm \(^2\) ですので、フルエンスを (/cm \(^2\) /sec) に規格化すれば、 (pSv/sec) 単位で被ばく線量を推定することができま す。 なお、重イオンに対する線量換算係数のエネルギー単位は核子あたりのMeVであ る MeV/n ですので、重イオンによる線量を計算したい場合は [parameters] セクションで iMeVperN=1 と設定してください。

この他、 \(k=-101,-102,-112,-114\) でそれぞれ陽子、中性子、電子、光 子のセットが選択されます。 これらの換算係数は、AP(前方-後方)照射条件で評価された実効線量換算係数 です。 [8] これらの値は、ID番号が \(-201\) の換算係数とほぼ同等ですが、単位が (\(\mu\) Sv/h)/(\(n\) /sec/cm \(^2\)) に規格化されている点が 異なりますのでご注意ください。 すなわち、フルエンスを (/cm \(^2\) /sec) で規格化した場合に、 (\(\mu\) Sv/h) 単位で被ばく線量を導出するように調整されています。 PHITS ver.2.00 から、線量換算係数のデータの内挿の仕方を linear-linear か ら log-log に変えましたので、注意してください。

また、核データや原子データのライブラリを読み込む設定の場合、これらに含ま れる断面積やカーマ係数などを読み込んで乗じることも可能です。 (すなわちEGS利用時の光子データは利用できません。) この場合、各 mset の書式が以下のようになります。

リスト 5.25.3 MT番号を用いた mset の書式
   ( C  m  MT1  MT2  ... )

ここで、 \(C\) は規格化定数、 \(m\)[material] で定義した物 質番号、 MT1MT2 は乗じたい係数のMT番号です。 2つ以上のMT番号を入力した場合は、基本的にはそれらMT番号のデータの積が乗 せられます。 和を乗じたい場合は、加算したいMT番号を : で繋ぎます。 MT番号とは、核反応の種類毎に決められた番号です。 詳細は、 https://wwwndc.jaea.go.jp/cgi-bin/ENDFfig?help=yeshttps://www.oecd-nea.org/dbdata/data/manual-endf/endf102.pdf のAppendix Bをご覧ください。 その代表的なものを以下に示します。

表 5.25.2 代表的なMT番号

MT番号

説明

1

(z,total) 全反応断面積 [barn]

2

(z,z0) 弾性散乱断面積 [barn]

3

(z,nonelas.) 非弾性散乱断面積 [barn]

4

(z,n) 1中性子生成断面積 [barn]

16

(z,2n) 2中性子生成断面積 [barn]

17

(z,3n) 3中性子生成断面積 [barn]

18

(z,fission) 核分裂断面積 [barn]

22

(z,n:alpha) 中性子・alpha粒子生成断面積 [barn]

27

(z,abs) 吸収断面積 [barn]

28

(z,np) 中性子・陽子生成断面積 [barn]

102

(z,gamma) gamma線生成捕獲断面積 [barn]

103

(z,p) 1陽子生成断面積 [barn]

104

(z,d) 1重陽子生成断面積 [barn]

105

(z,t) 1三重陽子生成断面積 [barn]

106

(z,3He) 1 \({}^3\mathrm{He}\) 生成断面積 [barn]

107

(z,alpha) 1alpha粒子生成断面積 [barn]

108

(z,2alpha) 2alpha粒子生成断面積 [barn]

109

(z,3alpha) 3alpha粒子生成断面積 [barn]

ただし、 part=neutron の結果に対して、 MT=103 のような荷電粒子を 生成する反応の断面積を乗じる場合は、 [parameters] において e-mode>0 としてください。 なお、 MT=102-109 などで定義される反応チャンネル別断面積は、 20 MeV以下の中性子断面積ライブラリのみに格納されています。 荷電粒子ライブラリや20 MeV以上の中性子ライブラリの値を参照したい場合は、 200番台の積分断面積(例えば MT=203 なら \((z,xp)\) 断面積)をご利 用下さい。

また、MT番号の箇所に負値の特殊番号を入力することにより、下記に示す係数を 乗じることも可能です。

part=neutron の場合:

表 5.25.3 中性子に対する特殊MT番号

特殊番号

説明

-1

熱補正しない全断面積 [barn]

-2

吸収断面積 [barn]

-3

熱補正しない弾性散乱断面積 [barn]

-4

反応あたりの平均発熱量 [MeV/collision]

-5

gamma線生成断面積 [barn]

-6

全核分裂断面積 [barn]

-7

核分裂による平均中性子放出数 \(\nu\) [個/fission]

-8

核分裂による平均発熱量 \(Q\) [MeV/fission]

part=photon の場合:

表 5.25.4 光子に対する特殊MT番号

特殊番号

説明

-1

コンプトン散乱(incoherent scattering)断面積 [barn]

-2

レイリー散乱(coherent scattering)断面積 [barn]

-3

光電効果断面積 [barn]

-4

電子対生成断面積 [barn]

-5

全反応断面積 [barn]

-6

反応あたりの平均発熱量 [MeV/collision]

以下、 mset の例題をいくつか示します。

  • (100.0 5 1) : 物質番号5番の全反応断面積を100倍して乗じる

  • (1.0 3 1 -4) : 物質番号3番の中性子に対するカーマ係数(全反応断面積 x 平均発熱量)を乗じる

  • (1.0 4 -5 -6) : 物質番号4番の光子に対するカーマ係数を乗じる( part=photon の場合)

  • (1.0 5 4:16:17) : 物質番号5番の(n,n),(n,2n),(n,3n)反応断面積の和を乗じる

  • (1.0 1 -6 -8) : 物質番号1番の核分裂生成熱(核分裂断面積 x \(Q\) 値)の和を乗じる

実際に利用された multiplier の数値が知りたい場合は、 multiplier サブセ クションにおいて part パラメータの後に mtinfo=1 と定義した上で、 出力したいエネルギー点を e-type 形式で定義してください。 そのタリーの出力ファイルに multiplier の数値が [multiplier] セクショ ン形式で出力されます。 ただし、物質番号を 0 とした場合は、 [material] に設定された中で、計算 に使用している最初の物質番号の時の係数を書き出します。 例えば、一番最初に書かれた物質番号が [cell] 等で参照されていなければ、 その物質番号の係数は書き出しません。