.. _sec-multiplier: [ Multiplier ] セクション ================================================== このセクションで定義した係数は、 **[t-track]** 、 **[t-cross]** 、 **[t-point]** の **multiplier** サブセクションで利用することができます。 エネルギーの関数として係数を定義し、タリー結果にその係数を乗じます。 例えば、任意の線量換算係数を用意し、その値を用いた場合の線量を評価する、 といったことに利用できます。 ひとつの **[multiplier]** セクションにひとつの係数のセットを定義でき、用意 できる **[multiplier]** セクションの数の上限は100です。 書式は以下の様になります。 .. code-block:: text :caption: **[ Multiplier ]** セクションの例題(1) [ Multiplier ] number = -201 interpolation = log part = all lagrange = 2 file = multiplier201.out epsout = 1 y-txt = Conversion coefficients (arb.) ne = 10 20.0 2.678 30.0 7.020 50.0 18.50 100.0 24.26 200.0 16.13 500.0 10.51 1000.0 10.55 2000.0 10.98 5000.0 12.10 10000.0 12.45 最初に、この係数をタリーの中で使うときのID番号を **number** で指定します。 指定できるIDは、-200から-299までの負整数です。 対象となる粒子は **part** で指定します。 定義方法は、タリーの **part** 定義方法と同じで、 **all** も使えます。 1つの **[multiplier]** で定義できる粒子数の最大は6つです。 同じ multiplier ID で様々な粒子に対するデータを定義したい場合は、それぞれ の粒子に対して **[multiplier]** セクションを定義してください。 データの内挿方法は **interpolation** で定義し、エネルギーと係数のデータの 両方についてlogで内挿する場合は **log** 、両方共linearで内挿する場合は **lin** 、エネルギーについてlogで係数の方はlinearで内挿する場合は **xlog** または **ylin** 、エネルギーについてlinearで係数の方はlogで内挿 する場合は **xlin** または **ylog** としてください。 [#semi-log]_ 内挿せず群定数として使う場合は **glow** もしくは **ghigh** と設定します。 データ数は **ne** で指定し、その下に **ne** の数だけエネルギー点と係数の値 をそれぞれ定義します。 なお、エネルギー点は昇順で書く必要があり、 **glow** あるいは **ghigh** の 場合は、エネルギー点として群の下限あるいは上限値をそれぞれ設定します。 データの外挿方法は指定できません。 定義したエネルギー下限値以下には最小エネルギー点の係数値が、上限値以上に は最大エネルギー点の係数値が使用されます。 定義したエネルギー範囲外の結果を使用したくない場合は、各タリーの **e-type** で調整してください。 Version 3.35 より、4点(3次)ラグランジュ補間公式による内挿方法が利用可能 になりました。 これはICRP等でも推奨されることがある補間方法です。 切り替え方法は **lagrange** パラメータを使用します。 これまでの2点間補間は 2(default) を、4点ラグランジュ補間は 4 を指定してく ださい。 **file** で出力ファイル名を指定すると、入力データおよび補間データが出力さ れます。 **epsout** と併せてご使用ください。 また、 **[multiplier]** セクションで定義した係数の名称を出力ファイル中に明 記したい場合は、 **y-txt** によりy軸の表示テキストを定義してください。 Version 3.03 より、いくつかのIDに対してデフォルトの値が設定されています。 それらのデータは、 ``/phits/data/multiplier/`` フォルダに格納されており、 ``m+「IDの絶対値」+.inp`` というファイル名でそれぞれまとめられています (例: IDが-200の場合は、 ``m200.inp`` )。 設定されているのは線量換算係数データ(単位 pSv cm :math:`^2` )と半導体 ソフトエラー発生率(単位は (FIT/Mbit)/(/cm :math:`^2` /s))であり、 :numref:`tbl-DCC` に各IDとの対応関係をまとめています。 このフォルダ内のデータは、ユーザーが自分で追加することも可能です。 これらのIDをインプットファイルの **[multiplier]** セクションで再定義した 場合は、再定義した値が優先されます。 半導体ソフトエラー発生率を評価するための multiplier (ID=-299)には、仮想 的な素子に対してPHITSとデバイスシミュレーターで評価した中性子SEU断面積を 格納しています。 [#abe2014]_ この素子に対するバックグランドソフトエラー発生率 [#parma]_ はおおよそ 400 FIT/Mbit(2MBのSRAMで18年に1回ソフトエラーが発生する頻度)となり ます。 なお、FITはソフトエラー率を表す単位で、1 FIT = 1e-9 err / hour です。 SEU断面積は半導体製品によって異なるため、実在の電子機器のソフトエラー率 を正確に算出する目的には使用できません。 あくまで一般的な地上環境におけるソフトエラー率との比較や、おおよその目安 を把握する目的に使用してください。 .. list-table:: 格納されている換算係数データの一覧 :name: tbl-DCC :widths: 20 80 :header-rows: 1 * - Multiplier ID - 格納されているデータ * - **-200** - :math:`H^*(10)` [#expacs]_ * - **-201** - ICRP60定義に基づく実効線量(前方照射) [#jaeri1345]_ * - **-202** - ICRP103定義に基づく実効線量(前方照射) [#icru95]_ * - **-203** - ICRP103定義に基づく実効線量(等方照射) [#icru95]_ * - **-204** - 新しい実用量 :math:`H^*` (全ての照射条件で最大となる実効線量) [#icru95]_ * - **-210** - 男女平均した実効線量当量(等方照射) [#icrp123]_ * - **-211** - 男性に対する実効線量当量(等方照射) [#icrp123]_ * - **-212** - 女性に対する実効線量当量(等方照射) [#icrp123]_ * - **-213** - 男性に対する造血組織線量当量(等方照射) [#icrp123]_ * - **-214** - 女性に対する造血組織線量当量(等方照射) [#icrp123]_ * - **-215** - 男性に対する皮膚線量当量(等方照射) [#icrp123]_ * - **-216** - 女性に対する皮膚線量当量(等方照射) [#icrp123]_ * - **-299** - 半導体ソフトエラー発生率(等方照射) [#abe2014]_ Multiplierサブセクション -------------------------------------------------- .. _multiplier-sub: 定義した係数をタリーで利用する場合は、 **[t-track]** 、 **[t-cross]** 、 **[t-point]** の **multiplier** サブセクションを使います。 基本的な表式は :math:`(C\ k)` です。 :math:`C` を規格化定数、 :math:`k` をID番号(ただし :math:`k < 0` )として 指定します。 具体的には、各タリーのセクションにおいて、以下の様な書式で使用します。 .. code-block:: text :caption: Multiplierサブセクションの例題 multiplier = all part = neutron emax = 1000 mat mset1 mset2 all ( 1 -201 ) ( 2 -202 ) **multiplier =** では **all** を指定してください。 **part =** で係数を乗じる粒子を指定します。 6個まで複数指定可能であり、 **all** も利用できます。 省略すれば **all** を指定したことになります。 ただし、指定した粒子以外の寄与はゼロになります。 **emax =** で係数を乗じるエネルギーの上限を設定します。 省略した場合は、 **[multiplier]** セクションで指定したエネルギーの最大値、 もしくはライブラリを使う場合はその上限値がセットされます。 それ以上では、その最大値に対する値が入ります。 次の先頭は **mat** として、その値は **all** としてください。 このパラメータに意味はありませんが、省略することはできませんのでご注意く ださい。 **mset1** 、 **mset2** は **multiplier** セットの指定です。 このセットは全部で6つまで指定可能で、それぞれのセット毎に結果が出力され ます。 また、ひとつのタリーセクション内に複数の **multiplier** サブセクションを 指定できます。 ただし、その時の **multiplier** セットの数は等しくなければなりません。 **[multiplier]** セクションで定義せずに使用できる係数もあります。 :math:`k=-1` の場合は 1/weight を乗じ、モンテカルロ粒子の(すなわち、 weightを常に1とした時の)結果を出力します。 :math:`k=-2` の場合は 1/velocity を乗じます。 :math:`k=-120` の場合は、物質の密度を乗じますので、 **icntl=5** と組み合 わせれば領域内の質量が計算できます。 また、 ``/phits/data/multiplier/`` フォルダ内にあるID番号もインプットで 定義せずに利用することができます。 現在、整備されているID番号とデータの種類は :numref:`tbl-DCC` をご参照くだ さい。 様々な種類の線量換算係数が格納されています。 これらの単位は pSv cm :math:`^2` ですので、フルエンスを (/cm :math:`^2` /sec) に規格化すれば、 (pSv/sec) 単位で被ばく線量を推定することができま す。 なお、重イオンに対する線量換算係数のエネルギー単位は核子あたりのMeVであ る MeV/n ですので、重イオンによる線量を計算したい場合は **[parameters]** セクションで **iMeVperN=1** と設定してください。 この他、 :math:`k=-101,-102,-112,-114` でそれぞれ陽子、中性子、電子、光 子のセットが選択されます。 これらの換算係数は、AP(前方-後方)照射条件で評価された実効線量換算係数 です。 [#jaeri1345-old]_ これらの値は、ID番号が :math:`-201` の換算係数とほぼ同等ですが、単位が (:math:`\mu` Sv/h)/(:math:`n` /sec/cm :math:`^2`) に規格化されている点が 異なりますのでご注意ください。 すなわち、フルエンスを (/cm :math:`^2` /sec) で規格化した場合に、 (:math:`\mu` Sv/h) 単位で被ばく線量を導出するように調整されています。 PHITS ver.2.00 から、線量換算係数のデータの内挿の仕方を linear-linear か ら log-log に変えましたので、注意してください。 また、核データや原子データのライブラリを読み込む設定の場合、これらに含ま れる断面積やカーマ係数などを読み込んで乗じることも可能です。 (すなわちEGS利用時の光子データは利用できません。) この場合、各 **mset** の書式が以下のようになります。 .. code-block:: text :caption: MT番号を用いた **mset** の書式 ( C m MT1 MT2 ... ) ここで、 :math:`C` は規格化定数、 :math:`m` は **[material]** で定義した物 質番号、 **MT1** 、 **MT2** は乗じたい係数のMT番号です。 2つ以上のMT番号を入力した場合は、基本的にはそれらMT番号のデータの積が乗 せられます。 和を乗じたい場合は、加算したいMT番号を **:** で繋ぎます。 MT番号とは、核反応の種類毎に決められた番号です。 詳細は、 https://wwwndc.jaea.go.jp/cgi-bin/ENDFfig?help=yes や https://www.oecd-nea.org/dbdata/data/manual-endf/endf102.pdf のAppendix Bをご覧ください。 その代表的なものを以下に示します。 .. list-table:: 代表的なMT番号 :widths: 15 85 :header-rows: 1 * - MT番号 - 説明 * - **1** - (z,total) 全反応断面積 [barn] * - **2** - (z,z0) 弾性散乱断面積 [barn] * - **3** - (z,nonelas.) 非弾性散乱断面積 [barn] * - **4** - (z,n) 1中性子生成断面積 [barn] * - **16** - (z,2n) 2中性子生成断面積 [barn] * - **17** - (z,3n) 3中性子生成断面積 [barn] * - **18** - (z,fission) 核分裂断面積 [barn] * - **22** - (z,n:alpha) 中性子・alpha粒子生成断面積 [barn] * - **27** - (z,abs) 吸収断面積 [barn] * - **28** - (z,np) 中性子・陽子生成断面積 [barn] * - **102** - (z,gamma) gamma線生成捕獲断面積 [barn] * - **103** - (z,p) 1陽子生成断面積 [barn] * - **104** - (z,d) 1重陽子生成断面積 [barn] * - **105** - (z,t) 1三重陽子生成断面積 [barn] * - **106** - (z,3He) 1 :math:`{}^3\mathrm{He}` 生成断面積 [barn] * - **107** - (z,alpha) 1alpha粒子生成断面積 [barn] * - **108** - (z,2alpha) 2alpha粒子生成断面積 [barn] * - **109** - (z,3alpha) 3alpha粒子生成断面積 [barn] ただし、 **part=neutron** の結果に対して、 **MT=103** のような荷電粒子を 生成する反応の断面積を乗じる場合は、 **[parameters]** において **e-mode>0** としてください。 なお、 **MT=102-109** などで定義される反応チャンネル別断面積は、 20 MeV以下の中性子断面積ライブラリのみに格納されています。 荷電粒子ライブラリや20 MeV以上の中性子ライブラリの値を参照したい場合は、 200番台の積分断面積(例えば **MT=203** なら :math:`(z,xp)` 断面積)をご利 用下さい。 また、MT番号の箇所に負値の特殊番号を入力することにより、下記に示す係数を 乗じることも可能です。 **part=neutron** の場合: .. list-table:: 中性子に対する特殊MT番号 :widths: 15 85 :header-rows: 1 * - 特殊番号 - 説明 * - **-1** - 熱補正しない全断面積 [barn] * - **-2** - 吸収断面積 [barn] * - **-3** - 熱補正しない弾性散乱断面積 [barn] * - **-4** - 反応あたりの平均発熱量 [MeV/collision] * - **-5** - gamma線生成断面積 [barn] * - **-6** - 全核分裂断面積 [barn] * - **-7** - 核分裂による平均中性子放出数 :math:`\nu` [個/fission] * - **-8** - 核分裂による平均発熱量 :math:`Q` [MeV/fission] **part=photon** の場合: .. list-table:: 光子に対する特殊MT番号 :widths: 15 85 :header-rows: 1 * - 特殊番号 - 説明 * - **-1** - コンプトン散乱(incoherent scattering)断面積 [barn] * - **-2** - レイリー散乱(coherent scattering)断面積 [barn] * - **-3** - 光電効果断面積 [barn] * - **-4** - 電子対生成断面積 [barn] * - **-5** - 全反応断面積 [barn] * - **-6** - 反応あたりの平均発熱量 [MeV/collision] 以下、 **mset** の例題をいくつか示します。 - **(100.0 5 1)** : 物質番号5番の全反応断面積を100倍して乗じる - **(1.0 3 1 -4)** : 物質番号3番の中性子に対するカーマ係数(全反応断面積 x 平均発熱量)を乗じる - **(1.0 4 -5 -6)** : 物質番号4番の光子に対するカーマ係数を乗じる( **part=photon** の場合) - **(1.0 5 4:16:17)** : 物質番号5番の(n,n),(n,2n),(n,3n)反応断面積の和を乗じる - **(1.0 1 -6 -8)** : 物質番号1番の核分裂生成熱(核分裂断面積 x :math:`Q` 値)の和を乗じる 実際に利用された multiplier の数値が知りたい場合は、 **multiplier** サブセ クションにおいて **part** パラメータの後に **mtinfo=1** と定義した上で、 出力したいエネルギー点を **e-type** 形式で定義してください。 そのタリーの出力ファイルに multiplier の数値が **[multiplier]** セクショ ン形式で出力されます。 ただし、物質番号を 0 とした場合は、 **[material]** に設定された中で、計算 に使用している最初の物質番号の時の係数を書き出します。 例えば、一番最初に書かれた物質番号が **[cell]** 等で参照されていなければ、 その物質番号の係数は書き出しません。 .. [#semi-log] ICRPレポートに見られる「linear-log」等の片対数グラフに対する表記は、慣例により縦軸、横軸の順に記述されます。この場合は、縦軸(y軸: 係数の軸)がlinearであることを示しています。参考: Wikipedia: Semi-log plot, https://en.wikipedia.org/wiki/Semi-log_plot .. [#abe2014] しきい電荷量を0.6 fCと仮定し、中性子のエネルギー範囲として1 MeVから1 GeVを考慮しています。詳細な計算方法は、S. Abe and Y. Watanabe, IEEE Trans. Nucl. Sci. 61, 3519-3526 (2014) をご参照ください。 .. [#parma] 東京地表面における宇宙線フラックスをPARMAモデルで計算して推定しています。PARMAモデルは、http://phits.jaea.go.jp/expacs よりダウンロード可能です。 .. [#expacs] EXPACS, http://phits.jaea.go.jp/expacs/ よりデータを抜粋。 .. [#jaeri1345] Y. Sakamoto, O. Sato, S. Tsuda, N. Yoshizawa, S. Iwai, S. Tanaka, and Y. Yamaguchi, "Dose conversion coefficients for high-energy photons, electrons, neutrons and protons", JAERI-1345, (2003) 他。 .. [#icru95] ICRU Report 95, 2020. .. [#icrp123] ICRP Publication 123, Ann. ICRP 42(4), 2013. .. [#jaeri1345-old] Y. Sakamoto, O. Sato, S. Tsuda, N. Yoshizawa, S. Iwai, S. Tanaka, and Y. Yamaguchi, "Dose conversion coefficients for high-energy photons, electrons, neutrons and protons", JAERI-1345, (2003).