7.15. [ T-Dchain ] セクション

このセクションでは、DCHAIN を実行するための入力ファイルを作成します。 PHITS と接続計算用に整備した DCHAIN の接続計算の概要を 図 7.15.1 に示します。 DCHAIN の実行方法や例題については、 \phits\recommendation\DCHAIN フォルダにある資料やサンプルインプットをご参照ください。 また、DCHAIN の詳細は、 \phits\dchain-sp\manual にあるマニュアルや DCHAIN-SP についてまとめられた資料 [10] をご参照ください。

../../../_images/t-dchain1.png

図 7.15.1 PHITS と DCHAIN の接続計算の概要。

[t-dchain] は、1968 群の中性子スペクトル、核種生成率、DCHAIN 用の基本入力ファイルを 自動的に作成するためのタリーです。このタリーの出力を DCHAIN に入力することにより、 任意の時間における生成核種の放射能、崩壊熱、ガンマ線スペクトルを計算できます。

DCHAIN は、20 MeV 以下の中性子スペクトルに 1968 群の放射化断面積を乗じて 20 MeV 以下の中性子による核種生成率を計算し、陽子、重イオン、中間子、20 MeV 以上の高エネルギー中性子による核種生成率と足し合わせます。その後、崩壊データを 利用して照射中及び照射終了後の任意の時刻における核種の蓄積量、誘導放射能、 ガンマ線エネルギースペクトル及びアルファ、ベータ及びガンマ線の放出による 崩壊熱等を評価します。

PHITS 計算における粒子輸送や [source] セクションで指定する線源の時間分布による 経過時間は、DCHAIN で考慮する経過時間とは無関係ですのでご注意ください。

なお、イベントジェネレータモードを使うと、低エネルギー中性子核反応による放射化も、 DCHAIN のデータライブラリを使わずに PHITS で直接計算することができます。 ただし、その計算精度は、データライブラリを使った場合と比べてあまり検証されていませんので、 [t-dchain] タリーを使う場合は、イベントジェネレータモードをオフ(e-mode=0) として計算することを奨励いたします。 また、最初から放射化している核種を [material] セクションで設定しても、 その放射能の寄与は DCHAIN 計算に含まれないのでご注意下さい。

バージョン 3.00 以降では、[material] において質量数を指定せずに定義した元素について、 天然存在比による展開を考慮した上で DCHAIN のインプットを作成するようにしました。 ただし、同一核種を複数定義した場合は、後に定義した方しか考慮されないのでご注意ください。 例えば、ある物質番号の組成として、

リスト 7.15.1 重複する核種定義の例
   MAT[1] Fe 1  56Fe 1

と定義した場合、Fe に含まれる 56Fe の寄与は DCHAIN 実行時には無視されます。

表 7.15.1 mesh

value

explanation

reg, xyz, tet

メッシュ型(reg, xyz, tet のみ対応)。 メッシュ型サブセクションが必要です。 reg はセル番号です。

表 7.15.2 file

value

explanation

file name

DCHAIN のインプットファイル名。1つだけ定義します。 拡張子は任意のものが使用できますが、.dtrk, .dyld, .dout は使用不可です。

表 7.15.3 title

value

explanation

(省略可)

タイトル。

表 7.15.4 stdcut

value

explanation

(省略可, D=-1

STD cut off のしきい値。

stdcut を指定すると、PHITS は STD、すなわち標準偏差の値に応じて自動的 に計算を停止します。 この機能は stdcut が正で、 [parameters] セクションにおいて itall=0,1 を指定した場合に利用できます。 1バッチの最後に、タリー結果の STD の相対値がすべて 0 より大きく stdcut より小さい場合、計算は停止します。 2つ以上のタリーセクションで stdcut を設定した場合は、それらすべてが 条件を満たした時にこの機能が動作します。

表 7.15.5 ndata

value

explanation

0, 1, 2 (省略時), 3

核反応イベントの結果を核種生成断面積(放射化断面積)データで置き換えるオプション。 0: このオプションを使用しません。 1: 陽子と中性子入射で標的核が 4He, 14N, 16O の場合に置き換える。 2: 陽子、中性子、重陽子、アルファ入射反応及び光核反応イベントを、 e-mode を使わずに評価済み核データによって計算した場合に、file(27) で指定した フォルダにある断面積データで置き換える。 3: 陽子、中性子、重陽子、アルファ入射反応及び光核反応イベントを、 評価済み核データ(e-mode 有り無し両方共)や核反応モデルによって計算した場合に、 file(27) で指定したフォルダにある断面積データで置き換える。

表 7.15.6 iredufmt

value

explanation

0, 1 (省略時)

[t-dchain] タリーの出力形式の切り替えオプション。 0 の場合、古い形式を使用する。 (普通の [t-track][t-yield] の形式) 1 の場合、[t-dchain] のために用意された新しい形式を使用する。 xyztet で大きなメッシュ数の場合にはこちらをご使用ください。

ndata の詳細については、[t-yield] を参照してください。

表 7.15.7 timeevo

value

explanation

データ数

照射・冷却時間ステップの数。

次行

時間 相対強度。 照射時間または冷却時間、相対照射強度(timeevo 個)。 照射・冷却時間ステップは、計算開始時からの通算時間ではなく、各照射・冷却ステップ毎の時間です。 時間の単位は、秒(s)、分(m)、時(h)、日(d)、年(y)であり、数値と単位の間には 1つ以上の空白が必要です。 相対照射強度は、線源の基準強度(amp)に対する相対強度で、照射時間ステップ毎に 変化させることができます。冷却時間ステップの場合は 0.0 とします。

表 7.15.8 outtime

value

explanation

データ数

計算結果出力時間の数。

次行

時間。 計算結果出力時間(outtime 個)。 正の値を指定した場合は計算開始時からの通算時間で、負の値を指定した場合は 最後の照射時間ステップ終了後からの時間になります。 時間の単位は、秒(s)、分(m)、時(h)、日(d)、年(y)であり、数値と単位の間には 1つ以上の空白が必要です。 照射中と冷却中の任意の時間を指定でき、照射・冷却時間ステップの区切り時間と 一致する必要はありません。 ただし、timeevo で指定した値を超えた時間を指定することはできません。

表 7.15.9 amp

value

explanation

(省略可, D=1.0

線源の基準強度(source/sec)。 [source] セクションで totfact を指定している場合は、 amp×totfact が実際の線源強度(単位 source/sec)となるように amp を調整してください。 また、norm=0 (デフォルト値)で RI 線源を使用した場合、自動的に totfact に単位が source/sec となる係数が掛かるので amp=1 としてください。

表 7.15.10 target

value

explanation

0, 1

mesh = regの場合に手動で対象領域の体積と核種密度を指定するオプション。 0: 自動設定([material],[cell],[volume]セクションから上記情報を読み込む) 1: 手動設定(次行以降に リスト 7.15.4 にしたがって体積と核種密度情報を指定)

本オプションは、[material]で定義した物質と異なる物質に対して放射化計算を実施したい場合に利用します。 mesh=xyzやtetに対して物質を変更したい場合は、[t-dhcain]より出力されたDCHAINの入力ファイルを直接編集してください。 また、本オプションは、20MeV以下の中性子による放射化計算に対してのみ正しく動作しますのでご注意ください。

表 7.15.11 iertdcho

value

explanation

0, 1D=1

PHITS の統計誤差の DCHAIN 計算における伝播に関するオプション。 1: DCHAIN 計算における伝播を評価し、その結果を放射化出力ファイル (***.act)に書き出します。 0: DCHAIN 計算における伝播を評価せず、結果の出力も行いません。

表 7.15.12 itdecs

value

explanation

0, 1D=1

核破砕反応によるターゲット減少に関するオプション。 0: 核破砕反応によるターゲット減少を考慮しない。 1: 考慮する。

表 7.15.13 itdecn

value

explanation

0, 1D=1

核データ領域の中性子反応によるターゲット減少に関するオプション。 0: 核データ領域の中性子反応によるターゲット減少を考慮しない。 1: 考慮する。

表 7.15.14 inxslib

value

explanation

0, 40

JEFF-3.1A (2009-2019年の DCHAIN-SP 標準)

1

FENDL/A-2.0 (2001-2009年の DCHAIN-SP 標準) 古い 175 群の t-track 中性子フラックスを使用した場合のみ動作します。

2, 20

JENDL/AD-2017

21

JENDL-4.0 [1]

30

ENDF/B-VII.1 [2]

31

ENDF/B-VIII.0 [3]

41

JEFF-3.3 [4]

50

FENDL/A-3.0 [5]

51

EAF-2010 [6]

60

BROND-3.1 [7]

70

CENDL-3.1 [8] ただし、S, Cl, K, Ca, V, Zn, W, Hg, Tl に対するデータがありません。

90

TENDL-2017 [9] ただし、ファイル容量が大きいためパッケージには含まれていません。 必要な方は PHITS 事務局までご連絡ください。

100

hybrid library composed of, in order: JENDL-5 + JENDL-4.0 + ENDF/B-VIII.0 + JEFF-3.3 + FENDL/A-3.0

101

hybrid library of: ENDF/B-VIII.0 + JENDL-5 + JENDL-4.0 + JEFF-3.3 + FENDL/A-3.0

102

hybrid library of: JEFF-3.3 + FENDL/A-3.0 + ENDF/B-VIII.0 + JENDL-5 + JENDL-4.0

120

hybrid library of: JENDL/AD-2017 + JENDL-4.0 + ENDF/B-VIII.0 + JEFF-3.3 + FENDL/A-3.0 (PHITS version 3.34 以前のデフォルトライブラリ)

-1

hnxslib パラメータでライブラリ名を指定する。 詳細は DCHAIN のマニュアルをご覧ください。

Hybrid library は、左側が優先ライブラリです。 計算時にある反応チャンネルが含まれる場合はそのデータを利用し、含まれなければ その右にあるライブラリを利用し、という順番でデータを探します。

表 7.15.15 idcylib

value

explanation

0

DCHAIN の旧バージョンで使用されていたハイブリッドライブラリ (EAF-3.1, FENDL/D-1, ENSDF (1997), Table of Isotopes 8th ed. (1996), 核図表1996)

2

JENDL/DDF-2015

3

ENDF/B-VIII.0

4

ENDF/B-VIII.0(優先)と JENDL/DDF-2015 のハイブリッドライブラリ。

5 (省略時)

JENDL/DDF-2015(優先)と ENDF/B-VIII.0 のハイブリッドライブラリ。

表 7.15.16 acmin

value

explanation

= 0.0

放射能の下限を自動設定(全放射能 × 10^-10[Bq/cm3])

> 0.0

放射能の下限値 [Bq/cm3] を指定。

< 0.0

生成核種数密度の下限値 [atoms/cm3] を指定(-1 を乗じた負の値)。

表 7.15.17 istabl

value

explanation

0

放射能出力ファイルの安定核種を出力しない。

1

放射能出力ファイルの安定核種を出力する。

表 7.15.18 iphtout

value

explanation

0 (省略時)

DCHAIN による PHITS の [source] 出力オプション。 0 or 1: RI 線源形式での [source] を出力しない。 10 or 11: proj=all で定義する RI 線源。 20 or 21: proj=photon で定義する RI 線源。 30 or 31: proj=electron で定義する RI 線源。 40 or 41: proj=positron で定義する RI 線源。 50 or 51: proj=alpha で定義する RI 線源。 下一桁を 1 にすると、従来形式も出力されます。 負値で定義した場合、各出力時間の線源情報が個別ファイルに出力されます。

表 7.15.19 iaonucl

value

explanation

0 (省略時)

DCHAIN で出力する EPS ファイルに表示する核種数。 DCHAIN の angelout_nuclides パラメータに相当。

表 7.15.20 aonucl

value

explanation

iaonucl で指定した数だけ核種を指定する (例 Cs-137 Ba-137m H-3)。

表 7.15.21 aoreg

value

explanation

DCHAIN で出力する EPS に表示する領域番号。 DCHAIN の angelout_region パラメータに相当。

表 7.15.22 dversion

value

explanation

0

DCHAIN-SP

1

DCHAIN-PHITS

2

DCHAIN-PHITS ただし、ユーザが data/dchain_EnGroup.dat で指定する中性子エネルギー群を利用する。

これら以外にも、DCHAIN のインプットに書き込むパラメータ

リスト 7.15.2 [t-dchain] で直接指定可能な追加パラメータ
   imode, jmode, idivs, iregon, inmtcf, ichain, itdecs, itdecn, isomtr,
   ifisyd, ifisye, iyild, iggrp, ibetap, acmin, istabl, igsdef, igsorg,
   ebeam, prodnp, hnxslib, hdcylib, iwrtchn, chrlvth, iwrchdt, iwrchss,
   idosecf, ixsrall, irdonce, foamout, foamvals, ipltmode, ipltaxis

[t-dchain] セクションで直接指定することが可能です。 各パラメータの意味や DCHAIN の入力パラメータおよび出力結果については、 \phits\dchain-sp\manual にある DCHAIN のマニュアルをご参照下さい。

リスト 7.15.3 [t-dchain] タリーの入力例
     1:        mesh = reg                         <-regionメッシュの指定
     2:         reg = 100                         <-計算領域の指定
     3:        file = testDC.spd                  <-DCHAIN入力ファイル名の指定
     4:       title = [t-dchain] test calc.
     5:         amp = 1.0E12                      <-線源の基準強度(source/秒)
     6:
     7:     timeevo = 4                           <-照射・冷却時間ステップの数
     8:              3.0 h  1.0                   <-3時間運転
     9:              2.0 h  0.0                   <-2時間運転停止
    10:              3.5 h  1.0                   <-3.5時間運転
    11:             15.5 h  0.0                   <-15.5時間運転停止
    12:
    13:     outtime = 3                           <-計算結果出力時間の数
    14:              3.0 h                        <-運転開始から3.0時間後
    15:             -1.0 h                        <-最後の照射終了時間から1時間後
    16:             -3.0 h                        <-最後の照射終了時間から3時間後
../../../_images/t-dchain2.png

図 7.15.2 例における照射・冷却時間ステップと計算結果出力時間の関係。

リスト 7.15.4 target=1 の場合の入力例
                .......
      :      target = 1                           <-対象領域の構成物質(核種及び密度)の設定有
      :      non    reg    vol                    <-省略可
      :       1     1   8000.0                    <-通し番号、cell番号、体積(cm^3)
      :     tg-list = 2                           <-対象領域構成物質に含まれる核種の数
      :             H-1   6.689E-02               <-核種の元素記号と原子数密度(10^24個/cm^3)
      :             O-16  3.345E-02
      :       2     2   2000.0                    <-通し番号、cell番号、体積(cm^3)
      :     tg-list = 1                           <-対象領域構成物質に含まれる核種の数
      :            Fe-56  8.385E-02

他に必要な PHITS 入力ファイルの設定及び注意事項は次のとおりです。

  1. [Parameters] セクションにおいて次のパラメータの設定を行ってください。 また、具体的な入力例として phits/recommendation/DCHAIN/dchain.inp をご参照ください。

  2. file(21): DCHAIN 用データフォルダの場所を指定します。DCHAIN 用データフォルダの場所が デフォルト(file(1)/dchain-sp/data)であれば指定しなくても計算できます。

  3. e-mode=0: 精度検証がされている DCHAIN のデータライブラリを用いた放射化計算を行います。

  4. igamma=3: アイソマー生成を EBITEM モデルを用いて考慮します。

  5. dmax(1)=200: 推奨。200 MeV までの陽子入射による核種生成を、JENDL-5 放射化断面積を用いて計算します。

  6. dmax(2)=200: 推奨。200 MeV までの中性子入射による核種生成を、JENDL-5 放射化断面積を用いて計算します。

  7. dmax(15)=100: 推奨。100 MeV/n までの重陽子入射による核種生成を、JENDL-5 放射化断面積を用いて計算します。

  8. [Volume] セクションにおいて各領域の体積を指定します。PHITS には reg メッシュの 体積を自動で計算する機能がないため、この入力が必須となります。

このセクションが作成するファイルで、DCHAIN 実行に必要なファイルを以下に示します。 ここで、* は **file= で指定した、拡張子を除く名前を示します。

  1. DCHAIN の基本入力ファイル: file で指定したファイル。

  2. 20 MeV 以下の中性子スペクトルファイル: ***.dtrk

  3. 核種生成率ファイル: ***.dyld

  4. DCHAIN 用データ格納フォルダのリンク名が書かれたファイル: dch_link.dat

DCHAIN を実行する際に、下記の名前をもつファイルは消えてしまうのでご注意ください。

リスト 7.15.5 DCHAIN 実行時に削除されるファイル
   yield.out, out-gsdef, out-gamsporg, out-allreg, spd-act.out,
   angel-data.ang, out-phits, out-dcychains