4.7. 核分裂の設定:ICHAINを増やす必要性¶
新しい核分裂ライブラリの導入により、DCHAINで核分裂を扱えるようになった。ただし、核分裂を含む計算で十分な精度を得るには、核種ごとに保持する生成・崩壊系列数の上限ICHAINを適切に設定する必要がある。本節では、体積1 cm\(^3\)と仮定した3.888 mgの\(^{248}\)Cm試料について、理論的に予想される核分裂生成物原子数と、異なるICHAINで得られるDCHAINの結果を比較する。自発核分裂、中性子誘起核分裂、両者が同時に起こる場合の順に検討する。以下では、*.actファイルの要約表に従い、質量数\(A\)が60~180の核種を核分裂生成物原子(FPA)として数える。
4.7.1. 自発核分裂:¶
\(^{248}\)Cmの半減期は347,930年、自発核分裂の分岐比は8.39 %である。3.888 mgの試料には\(9.44014 \times 10^{18}\)個の\(^{248}\)Cm原子が含まれる。これに崩壊定数\(6.313 \times 10^{-14}\)s\(^{-1}\)を掛けると、全放射能は595.9 kBqとなる。1秒間に起こる自発核分裂数は、放射能、時間、自発核分裂分岐比の積から約50,000回と見積もられる。1回の核分裂で2個の原子核が生じるため、理論上は100,000個のFPAが生成される。
計算はDCHAIN単体で実行し、jmode= -1(崩壊のみ)およびifisyd= 2(誘起核分裂と自発核分裂を有効化)を設定する。核分裂収率ライブラリにはinfylib= 17とisfylib= 1を使用する。これは、isfylib= 17とした場合と同様に、誘起核分裂と自発核分裂に同じ系列のライブラリを使用する設定である。まず、ichain= 100とilchain= 100の既定値で計算する。
この条件では、*.actファイルの要約表にある(A=60-180:all)の値は99,076であり、理論値より約1 %少ない。核分裂を考慮すると、各核種へ至る生成・崩壊経路の数が大幅に増え、ICHAINの既定値ではすべての重要な経路を保持できないためである。一方、個々の系列の長さは大きく増えないため、ILCHAINは100のままとし、ICHAINだけを増加させる。各ICHAINで得られたFPA数と理論値との差を 表 4.7.1 に示す。
|
FPAの数 |
理論値からの偏差 |
|---|---|---|
100 |
99076.1 |
-0.92% |
120 |
99159.0 |
-0.84% |
150 |
99329.6 |
-0.67% |
200 |
99685.3 |
-0.31% |
300 |
99894.0 |
-0.11% |
500 |
100018.0 |
0.02% |
1000 |
100055.0 |
0.05% |
5000 |
100080.0 |
0.08% |
10000 |
100080.0 |
0.08% |
50000 |
100080.0 |
0.08% |
総FPA数に影響する経路をほぼすべて含めるにはICHAINを1,000~5,000程度まで増やす必要があるが、主要な経路はICHAIN\(\approx\)300~500で含まれる。単純な自発核分裂だけを扱う場合でも、ICHAINを既定値から増やすことが重要である。
4.7.2. 中性子誘導核分裂:¶
同じ3.888 mgの\(^{248}\)Cm試料を、14.1 MeV、\(2.3374 \times 10^9\)n/(cm\(^2\)\(\cdot\)s)の中性子束で1秒間照射し、中性子誘起核分裂によるFPA生成量を評価する。14.1 MeVにおける\(^{248}\)Cmの全核分裂断面積は2.266 barnである。原子数密度\(9.44014 \times 10^{18}\)atoms/cm\(^3\)、断面積\(2.266 \times 10^{-24}\)cm\(^2\)、中性子束、体積1 cm\(^3\)の積から、核分裂率は毎秒50,000回となる。したがって、1秒間に生成されるFPAの理論値は100,000個である。
[T-Dchain]でDCHAIN入力ファイルを生成し、jmode= 2として崩壊、中性子反応、高エネルギー反応による生成・消滅を考慮する。ここでは中性子誘起核分裂だけを評価するため、ifisyd= 1を設定する。その他はPHITSの推奨既定値とし、まずichain= 100、ilchain= 100で計算する。
既定値で得られるFPA数は98,410であり、理論値より1.5 %以上少ない。中性子誘起核分裂では、核分裂に加えて中性子放射化も同時に起こるため、自発核分裂だけの場合より各核種へ至る経路が多くなる。アクチニド同士の核変換によって新たな核分裂性核種が生成され、その核分裂生成物もさらに中性子反応を起こし得るためである。*.dcsファイルで系列長を確認するとILCHAINを増やす必要はないため、ilchain= 100を維持してichainだけを増加させる。結果を 表 4.7.2 に示す。
|
FPAの値 |
理論値からの偏差 |
|---|---|---|
100 |
98410.0 |
-1.59% |
120 |
98421.7 |
-1.58% |
150 |
98425.5 |
-1.57% |
200 |
99641.0 |
-0.36% |
300 |
99881.5 |
-0.12% |
500 |
99991.0 |
-0.01% |
1000 |
99992.1 |
-0.01% |
5000 |
100032.0 |
0.03% |
10000 |
100244.0 |
0.24% |
50000 |
100996.0 |
1.00% |
ICHAINを300~500へ増やすと、欠落していた主要な生成経路の多くが含まれる。ただし、この例ではICHAIN= 50,000までFPA数が一定値へ収束していない。ICHAINを増やすほど実行時間とメモリー使用量が増え、非常に大きな値ではメモリー不足となる可能性がある。必要メモリー量はICHAINとILCHAINの両方に依存する。*.dcsファイルには、ACMINとCHRLVTHの条件を満たす重要な系列が出力される。本例では、すべての系列長が100より十分短いため、ILCHAINを小さくして、その分のメモリーをICHAINに割り当てることもできる。
中性子誘起核分裂では、多くの場合ICHAINを1,000以下に設定しても理論値に近い結果を得られる。ただし、FPA数へ小さく寄与する経路が上限によって除外されている可能性は残るため、必要な精度に応じて収束性を確認すること。
4.7.3. 自発および中性子誘導核分裂の同時発生:¶
自発核分裂と中性子誘起核分裂を同時に扱うため、ifisyd= 2とし、比較のためichain= 100、ilchain= 100の既定値へ戻す。1秒間に自発核分裂と誘起核分裂がそれぞれ50,000回起こるため、理論上のFPA数は合計200,000個である。しかし、既定値で得られるFPA数は104,251個であり、理論値の約半分にとどまる。
これは、自発核分裂と誘起核分裂の経路が、核種ごとに保持できる有限個のICHAINを共有するためである。DCHAINでは崩壊ライブラリと自発核分裂収率が、反応断面積と誘起核分裂収率より先に処理される。本例では、100個の系列の大部分が自発核分裂を含む経路に使用され、誘起核分裂の経路を十分に保持できない。表 4.7.3 に示すように、ICHAINを増やすことでこの不足を解消できる。
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FPAの数 |
理論値からの偏差 |
|---|---|---|
100 |
104251.0 |
-47.87% |
120 |
131522.0 |
-34.24% |
150 |
176801.0 |
-11.60% |
200 |
198311.0 |
-0.84% |
300 |
199088.0 |
-0.46% |
500 |
199780.0 |
-0.11% |
1000 |
199958.0 |
-0.02% |
5000 |
199993.0 |
0.00% |
10000 |
200104.0 |
0.05% |
50000 |
200712.0 |
0.36% |
本例では、ICHAIN= 1,000で理論値に非常に近い結果が得られる。精度と実行時間の妥協点として、核分裂性核種を含む計算では、まずICHAINを500~1,000程度に設定することを推奨する。必要な値は計算条件によって異なるため、重要な計算ではICHAINを変化させて結果の収束性を確認すること。ICHAINの既定値が100であるのは、この制限が主に核分裂を含む計算で問題となり、より一般的な核分裂を伴わない放射化計算では、小さい値の方が計算効率に優れるためである。