4.9. DCHAINの線量率出力¶
DCHAINが出力する主要な量の一つに「線量率」がある。ただし、線量には複数の定義があるため、本節ではDCHAINにおける線量率の意味、計算方法、利用上の注意点を説明する。
DCHAINの線量率は、各核種の放射能に、その核種固有の放射能-線量換算係数を掛けて求める。この係数は各崩壊ライブラリの全核種に用意されており、光子フルエンスから実効線量\(E\)への換算係数(ICRP 116 [ICR10])または周辺線量当量\(H^*(10)\)への換算係数(ICRP 74 [IInternationalCoRProtectionInternationalCoRUnits96])に基づく。
核種ごとの放射能-線量換算係数は、崩壊データに収録された各光子について、放出強度\(\varepsilon\)(\(\gamma\)/decay)と、光子エネルギー依存のフルエンス-線量換算係数\(C_{\text{ICRP}}(E)\)の積を合計して求める。式 (4.9.1) は、放射能\(A_X\)の核種\(X\)が、エネルギー\(E_i\)、放出強度\(\varepsilon_i\)の光子を\(N_X\)本放出する場合の線量率(\(\dot{E}\)または\(\dot{H}^*(10)\))を示す。フルエンス-線量換算係数\(C\)は、式 (4.9.2) に示すように、ICRPで使用するpSv\(\cdot\)cm\(^2\)から、DCHAINで使用する\(\frac{\mu \text{Sv} \cdot \text{m}^2}{\text{MBq} \cdot \text{hr}}\)へ単位換算される。
ICRPの換算係数は、分母に面積の次元(cm\(^2\))を持つフルエンスまたはフラックスと組み合わせ、線量(pSv)または線量率(pSv/s)を求めることを前提としている。一方、崩壊核種から観測点へ到達する光子フラックスは、線源からの距離や物質中での減衰(自己遮蔽)に大きく依存する。DCHAINは各領域の実寸法や位置関係を認識しないため、減衰を考慮できず、自己遮蔽も無視する。
距離の影響だけを考え、核種が点線源に集中していると仮定する。光子放出率を\(\dot{R}=A\cdot\varepsilon_{\text{total}}\)(放射能と1崩壊当たりの全光子放出数の積)とすると、線源から距離\(r\)における光子フラックスは\(\phi(r)=\dot{R}/(4\pi r^2)\)である。DCHAINの出力値には放射能と放出確率がすでに含まれるため、点線源から距離\(\ell\)における線量率を見積もるには、その値を\(4\pi\ell^2\)で割ればよい。ただし、点線源以外の形状では幾何学的な換算係数が異なる。
すなわち、DCHAINが出力する線量率を物理的な線量率へ換算するには、線源の光子放出率を観測点の光子フラックスへ変換する係数を掛ける必要がある。
使用するICRP換算係数はIDOSECFで選択し、出力する線量率の単位(線量×面積/時間)はIDOSUNITで変更できる。換算係数は<PHITS-install>/dchain-sp/data/フォルダー内の*_dose_rate_coeff.datに記載されている。ファイル名の先頭部分は、IDCYLIBで選択した崩壊ライブラリに対応する。核種ごとの係数の計算には、その崩壊ライブラリに収録された光子のエネルギーと放出強度が使用される。
本格的な線量評価では、DCHAINが出力したPHITSの[Source]セクションを、線量をタリーする2回目のPHITS計算へ入力すること。DCHAINの線量率だけを使用すると、線源形状や自己遮蔽を考慮できない。DCHAINの線量率は、生成核種とその放射能が持つ放射線影響の大きさを簡便に把握するための指標である。自己遮蔽を無視でき、光子以外の放出粒子が問題とならない単純な線源を除き、最終的な線量評価には輸送計算を使用することを推奨する。