4.10. 崩壊系列図式/インベントリ変化出力ファイル

*.dcsファイルへの崩壊系列情報の出力は、5つのパラメータで制御する。IWRTCHNはファイル自体を出力するかどうかを指定し、0で無効、1で有効となる。[T-Dchain]の既定値はIWRTCHN=1である。CHRLVTHは、各崩壊系列を出力対象とみなす条件を制御する。カード4の説明に示す4種類の指定方法があり、既定値CHRLVTH=-1.0では、対象核種のインベントリ変化量が1.0 atom/cm\(^3\)以上の系列を出力する。

IWRCHDTは、崩壊系列を構成する各過程が核種インベントリの変化量へ与える寄与を出力する。ビーム反応による生成と、崩壊・中性子反応 [1] による変化を分け、各系列の核種行の下へ3行の数値を追加する。各列の値は、その時間ステップにおいて、列に示した核種から系列の終端核種へ変換された原子数密度を表す。

dN_Beamは、高エネルギー反応([T-Yield]の*.dyld出力)を起点とする変化量である。終端核種が直接生成される場合と、同じ時間ステップ内の後続崩壊を経て生成される場合を含む。dN_Decay/nxは、既存の核種インベントリから崩壊または中性子反応によって生じる変化量であり、原因となる過程は核種間の矢印内に示される。両者の和がdN_Totalであり、その行の全項目を合計すると、当該系列のdN [atm/cc]列の値となる。したがって、各時間ステップにおいて、どの反応・崩壊が各核種の増減へ寄与したかを詳細に確認できる。以下に例を示す。

             S  39  --(B-)->  Cl 39  --(B-)->  Ar 39
    dN_Beam: 1.87215E+05      5.20911E+07      7.29774E+09
dN_Decay/nx: 8.61687E+03      6.81577E+08     -2.28468E+04
   dN_Total: 1.95831E+05      7.33669E+08      7.29771E+09

この例は、特定の崩壊系列が時間ステップ内の\(^{39}\)Arインベントリをどのように変化させたかを示す。\(^{39}\)S列と\(^{39}\)Cl列は、それぞれの核種から\(^{39}\)Arへ変換された原子数密度である。1行目は、その時間ステップにおけるビーム反応と後続崩壊による寄与、2行目は以前の時間ステップから存在する核種の崩壊・中性子反応による寄与を表す。この例の矢印で示される過程はいずれも\(\beta^-\)崩壊である。\(^{39}\)Ar列は、ビーム反応による直接生成と、崩壊・中性子反応による生成または消滅を示す。

IWRCHDTの既定値は0である。詳細を出力するとファイルが長くなり、概要を把握しにくくなるためである。一方、各核種がどの反応・崩壊によって蓄積したかを調べる場合には有用である。

IWRCHNUCは、*.dcsファイルへ出力する終端核種を限定する。既定では全核種の系列情報を出力するため、ファイルが非常に長くなる場合がある。少数の核種の生成だけを調べる場合は、このパラメータで追跡対象を限定できる。

IWRCHSSは、各照射期間をIDIVSで分割したサブステップについて、系列情報を出力するかどうかを指定する。既定値IWRCHSS=0では、各照射期間の最後のサブステップだけを出力する。IWRCHSS=1では、すべての計算時間ステップを出力する。時間ステップの決まり方は 4.8節 を参照すること。

*.dcsファイルの出力時刻は、他の出力ファイルと異なる。他のファイルが原則としてITOUTで指定した時刻だけを出力するのに対し、*.dcsファイルは、出力時刻と照射・冷却期間を組み合わせて決まる各計算ステップを対象とする。IWRCHSS=1とすれば、CHRLVTHの出力条件を満たす各系列について、すべての計算時間ステップにおけるインベントリ変化を確認できる。さらにIWRCHDT=1とすれば、系列内の各過程による寄与も確認できる。

出力には、たとえば\(^6\)Hから3回の中性子放出を経て\(^3\)Hへ至るような、実際の寄与がない不自然な系列が現れることがある。DCHAINが各終端核種について最初に構築する系列には、その系列が不自然に見えても、当該時間ステップにおける終端核種の直接ビーム生成項と崩壊項が含まれるため、出力対象となり得る。同じ終端核種へ至る2番目以降の系列は、系列内の他の核種の生成・崩壊・反応による変化だけに寄与する。

IWRCHDT=1とすれば、不自然に見える系列のうち、どの核種が終端核種のインベントリへ実際に寄与したかを判別できる。上記の\(^3\)Hの例では、\(^3\)Hの変化は直接のビーム生成と自身の崩壊だけによるものであり、系列に表示された重い水素同位体の寄与はゼロであるため無視できる。

表 4.10.1 に、系列の矢印(--(XX)-->)内に表示される記号と、対応する崩壊・反応モードを示す。記号は2文字に制限されるため、意味が分かりにくいものもある。表に明記されていない反応・崩壊は、親核種と娘核種の原子番号\(Z\)および質量数\(A\)の差から通常は判別できる。表の最初の2列はDCHAIN内部と崩壊ライブラリで使用する識別番号であり、出力を解釈する際には参照しなくてもよい。

表 4.10.1 DCHAIN 崩壊モードの値とシンボル

DCHAIN \(\#\)

Decay library \(\#\)

Decay mode

DCHAIN symbol

1

1.00

\(\beta^-\)

B-

2

3.00

IT

IT

3

n/a

\((n,x)\)

nx

4

2.00

\(\beta^+/\)EC

B+

5

4.00

\(\alpha\)

a

6

5.00

\(n\)

n

7

6.00

s.f.

sf

8

other

or

20

1.10

\(\beta^-\beta^-\)

BB

21

1.50

\(\beta^-n\)

Bn

22

1.55

\(\beta^-2n\)

B2

23

1.56

\(\beta^-3n\)

B3

24

1.40

\(\beta^-\alpha\)

Ba

30

7.00

\(p\)

p

33

7.70

\(2p\)

2p

41

2.70

\(\beta^+p\)

Ep

42

2.77

\(\beta^+2p\)

E2

44

2.40

\(\beta^+\alpha\)

Ea

47

2.60

\(\beta^+\)s.f.

Ef

66

5.50

\(2n\)

2n