用語解説

宇宙線
 宇宙空間を高速で飛び交い地球に降り注いでくる粒子群を宇宙線と呼びます。地磁気に補足された比較的エネルギーの低い放射線から,超新星爆発などで加速された極めてエネルギーの高い放射線まで,様々な放射線が含まれます。また,大気に入射した宇宙線と大気中の酸素や窒素などの原子核との核反応により放出された中性子やμ粒子などは2次宇宙線と呼ばれます。

スペクトル
 ここでは粒子のエネルギーの分布を指します。同じ種類の放射線でも,そのエネルギーが違うと人体に与える影響も大きく変わります。したがって,宇宙線被ばく線量を評価するためには,その数(強度)だけでなく,エネルギーの分布,すなわちスペクトルを評価することが重要となります。

被ばく線量
 放射線が人体に与える影響の大きさを表す指標。単位はSv(シーベルト)。被ばく線量には,人体に対して定義された被ばく線量(実効線量)や,ある場所に対して定義された被ばく線量(周辺線量当量)などがあります。EXPACSでは,その両方の被ばく線量を計算することができます。

中性子・陽子・ヘリウム原子核・μ粒子・電子・陽電子・光子
 放射線には様々な種類があります。EXPACSは,宇宙線(2次宇宙線を含む)の中で,特に被ばく線量への寄与の大きい上記7種類の放射線に対するスペクトルを計算することができます。以下,各放射線の概要を説明します。
中性子:電荷を持たず,透過力の強い放射線。航空機被ばくや半導体ソフトエラー発生の主な原因となる。
陽子:1次宇宙線の大部分を占める荷電放射線。水素の原子核。
ヘリウム原子核:1次宇宙線に数%程度含まれる荷電放射線。陽子より重く,人体に重大な影響を与える可能性がある。
μ粒子:透過力の極めて強い荷電放射線。地表面での主な被ばく源となる。
電子・陽電子:負もしくは正の電荷を持つ軽い放射線。
光子:電荷・質量を持たない放射線。

地磁気強度
 地球は,極めて大きな磁石と考えることができ,その磁場により宇宙線の進入を妨げています。しかし,磁極(グリーンランド及び南極)付近では,磁場の影響が小さくなり,数多くの放射線が大気上空まで到達します。地磁気の強さを表す指標として,Vertical cut-off rigidityという値が用いられ,EXPACSもこの値を用いて宇宙線スペクトルを計算します。

太陽活動周期(強度)
 太陽には活発な時期と静穏な時期があることが知られています。それらの徴候は,太陽黒点の数を調べることにより推測することができ,その活動周期は約11年(22年)であることがわかっています。太陽活動が活発になると,太陽磁場が強くなり太陽系(地球を含む)の中に入り込む銀河宇宙線の数が減少し,私たちの宇宙線被ばく線量率は小さくなります。ただし,巨大な太陽フレア現象が発生した場合は,太陽起源の宇宙線が地磁気圏内まで到達し,一時的に宇宙線被ばく線量率が高くなる可能性があります。

2次宇宙線
 大気中で2次的に発生する宇宙線のうち被ばくの観点から重要な粒子は、航空機高度では中性子、地表付近ではμ粒子になります。中性子は電荷を持たないため,一般に,陽子など他の放射線と比較して物質中で長い距離を移動することができます。一方,μ粒子は電荷を持ちますが,宇宙線により生成されるμ粒子は,極めて高いエネルギーを持つ場合があり,それらは,中性子よりもさらに長い距離を移動することができます。その中には,地下数kmまで到達するものも存在することが分かっています。

自然放射線
 自然放射線とは、宇宙線や、地球誕生以来存在しているカリウム40やウラン・トリウム崩壊系列核種などの自然放射性核種に由来する放射線を指します。この言葉は、原子力利用や放射線発生装置の利用によって発生する人工放射線と対比して用いられます。

航空機乗務員の被ばく
 航空機内は,地表面と比べて宇宙線の強度が強く被ばく線量率が高い状態にあり,航空機乗務によって付加的に受ける線量は、公衆の線量限度である年間1mSvを超える場合があります。この問題については,国際放射線防護委員会(ICRP)の1990年勧告で航空機乗務員の被ばくが職業被ばくであるとの見解が示されて以降,世界中で盛んに議論されてきました。日本でも,昨年,文部科学省の放射線審議会が,航空機乗務員の被ばく線量を年間5mSv以下とするよう自主管理を促すガイドラインを策定し、国内の航空会社に通達しました。これを受けて,その被ばく線量を精度よく評価する為の手法を確立する必要性が高まっています。

半導体ソフトエラー
 半導体メモリの有感部分に,放射線によりある一定値以上の電離が与えられると,メモリ反転などの誤動作を引き起こします。従来は,極めて放射線レベルの高い宇宙環境や加速器施設などにおいてのみ問題となっていましたが,近年の急速な半導体素子の小型化に伴い,宇宙線由来の中性子が航空機内や地表面で引き起こすソフトエラーが大きな問題となっています。例えば,256Mバイトのメモリを搭載したノートパソコンを高度約10000mで飛行中の航空機内で使用した場合,約5時間に1回の頻度でソフトエラーが発生している推定されており,地表面においても,この1/100程度の頻度で発生していると考えられています。したがって,信頼性の高いコンピュータシステムを構築するためには,そのソフトエラー発生頻度を正確に予測し,それに応じた様々な対策(エラー発生頻度の低い半導体素子の採用やエラー訂正回路の組込など)を講じる必要があります。
参考URL http://www.ednjapan.com/content/issue/2005/02/feature/feature02.html

放射線輸送計算コード
 放射線が,物質中で核反応や電離などの相互作用をしながら移動する現象をコンピュータ内でシミュレーションするプログラム

PHITS
 高エネルギー放射線を扱える汎用の放射線輸送計算コード。任意の体系中における陽子・中性子・重イオン・電子・光子など挙動を,最新の核反応モデルを用いて模擬することができます。PHITSは,その汎用性を活かして,加速器の遮へい設計・粒子線治療の治療計画・宇宙飛行士の線量評価など,様々な目的で利用されています。詳しくはPHITSホームページをご参照下さい。

評価済み核データライブラリ
 実験値や計算モデルを用いて,放射線輸送計算コードで必要となる様々な核反応断面積を評価し,取りまとめたデータライブラリ

JENDL-High Energy File
 日本原子力研究開発機構 原子力基礎工学研究部門 核工学・炉工学ユニット 核データ評価研究グループが整備している10-5~109eVにわたる中性子及び陽子入射に対する核データライブラリ
(核データ評価研究グループのホームページへ)

航路線量計算システムJISCARD
 国際線航空機に搭乗した際に受ける宇宙線による被ばく線量(実効線量)を計算表示するインターネットツールで、放医研で開発され、平成17年9月15日より放医研のホームページで一般に公開されています。JISCARDとは、Japanese Internet System for Calculation of Aviation Route Dosesの略。
(JISCARDのホームページへ)

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